大田屋クリニック(山梨県富士吉田市)の院長である佐藤孝典先生は、患者さんの利便性を高めて、診療を気軽に受けられるように配慮している。その一つがオンライン診療だ。高血圧は自覚症状がないが、放置すると心筋梗塞や脳卒中といった「人生を大きく変える病気」につながる。高血圧の治療を早期に開始し、継続するためにオンライン診療は大きく活躍できる可能性があるという。佐藤院長に詳しく話を伺った。
※佐藤先生にインタビューを実施し、頂いたコメントを弊社にて一部編集して掲載しています。
高血圧は人生を変える病気につながる
──先生がオンライン診療を取り入れた理由を教えてください。
私は循環器内科を専門としており、生まれ育った地域の医療に貢献するため新たな工夫をどんどん取り入れるようにしています。土日もクリニックを開けて、往診・訪問診療にも対応し、オンライン診療も用意しています。それぞれの利点をミックスして、患者さんの利便性を図っています。
なぜかというと、重大な病気を起こさないようにするためには、通院しなくなることを防ぐのが一番のポイントだからです。通院を止めてしまうと困る病気の一つが高血圧です。
──高血圧の受診を止めると、どう困るのでしょうか?
高血圧は動脈硬化を引き起こす最も大きな原因です。動脈硬化が引き起こす病気には心筋梗塞や脳卒中などがあり、動脈硬化関連疾患は日本人の死因第2位です(65歳以上では第1位)。高血圧を抱えて年齢を重ねるほど、動脈硬化による怖い病気が起こるリスクが高まります。
心筋梗塞や脳卒中といった血管の病気の怖いところは、ある日突然発症して人生を大きく変えてしまうことです。実際に、ある患者さんは50代なのに高血圧による脳出血を起こし、障害とともに生活するようになりました。もしその人が早めに受診していたら脳出血は起こらなかったかもしれません。
血管の病気のリスクを減らすには高血圧治療による予防が重要です。その点で、オンライン診療は貢献できると思っています。
──高血圧と動脈硬化はどのようにつながっているのでしょうか?
血圧が高い状態が続くと、血管の内側(内皮)が傷ついてしまって、プラークが溜まってきます。そのゴミが詰まって血液が流れなくなると、心筋梗塞や脳梗塞になります。また、血圧が高いせいで脳の血管が破裂したのが脳出血です。
高血圧で血管の内側にプラークが溜まってきても、何とか血液が流れている間は特に症状は出ないので、本人が知らないうちに悪化してしまうのです。
オンライン診療で、高血圧の受診を先送りしない
──高血圧を訴えて受診する患者さんはどのようなきっかけで来院していますか?
大きなきっかけは健康診断です。健診で血圧が高いことを指摘されて、結果の紙を持って受診されることはよくあります。また、健診で引っかかった後に何回か自分で血圧を測ってから来院される方もいます。
なかには職場で必ず受診するよう指導されてすぐに来院する人もいますが、多くの場合は健診から少し経ってから、ワンテンポ遅れて受診する人が多いです。オンライン診療なら、もう少し早く受診するきっかけになるかもしれません。
──血圧がどれくらい高いと病院で治療を受けるべきなのでしょうか。
日本高血圧学会が発行しているガイドラインがあります。改訂のたびに血圧の目標値が微妙に変わっているのですが、私はまず「140/90mmHgを下回ってください」と説明しています。
──健診で引っかかったら自宅でも血圧を測るべきでしょうか?
血圧は変動が大きいものです。1回の血圧測定では何とも言えないので、私はいつも「血圧計を見たら測りましょう」といつも言っています。血圧計はドラッグストアや役場などの公共の場に置いてありますので、見つけたらチャンスだと思って測ってください。
健診や病院で測ったときだけ緊張して血圧が高くなる人が多くいますので、リラックスしているときにどのぐらいの血圧なのかが知りたいです。健診で高いと言われたら、いろんな場所で測ってみて、それでも高ければ受診するようにしてください。
LINEドクターでの高血圧診療
──実際にLINEドクターで高血圧診療をしている方はいらっしゃいますか?
当院に来院されている患者さんには、実質通院時間や通院の手間が不要なのでオンライン診療の利用を積極的におすすめしています。特に若い人は忙しくて受診しにくいと思うからです。
待合室での待ち時間もなくて便利なので、1回試すとそのままオンライン診療を継続して使う方が多いですね。そういう方は「たまには採血検査もしたいから次は対面で来てね」などと言わないとずっとオンラインを選びがちで、少し困っているくらいです(笑)
また、他の病院で降圧薬を処方されていて「薬がなくなったからください」とオンライン診療で言われる方もいらっしゃいます。
──高血圧でオンライン診療を受ける前に、何か用意をしておくことはありますか?
できれば、健診結果(直前のものに加え、それ以前のものもあるとベター)やご自身で測った血圧(できれば複数回)をご用意いただきたいです。LINEドクターを予約するときに血圧を記載したり、健診結果の画像を送信したりしてもらえると大変助かります。
けれど、これらを用意しなくてはダメということはなくて、気軽に相談していただければと思います。
私はいつも「オンライン診療なら、気軽に隙間時間で使ってもいいよ」と言っています。とにかく気楽に診療を受けてもらいたいです。
──高血圧のオンライン診療はどのような流れになりますか?
まずは問診です。医師が気になるのは、血圧が高いこと以外に何か別の病気や原因が隠れていないかどうかです。これまでにどんな病気をしたのか、健診で他に何か指摘されていないのかなどを確認します。
そのうえで明らかに降圧薬の適応であれば、投薬を開始します。薬は自宅に送るか、薬局で受け取るかを選べます。通常、高血圧であれば今すぐ薬を飲まなければいけないということはないので、自宅に届く方が便利ではないかと思います。
──オンライン診療後はどうなりますか?
降圧薬を処方したら、次回の診察日までに血圧を測ってもらうことと、もし何か体調の変化など気になることがあったらすぐに当院に電話することをお願いしています。オンライン診療でもアフターケアを大切にして、安心して治療を続けていただきたいと思っています。
オンラインだからこそ、つながれる患者さんもいる
──高血圧をオンライン診療で診断・治療できるようになったことについて、先生のお考えを教えてください。
オンライン診療の一番の魅力は、患者さんの利便性を向上して、早期に治療を開始したり、治療の中断を阻止したりできることです。
当初は高血圧をオンラインで診ることに違和感があったかもしれませんが、社会的に普及してくると、今までは考えられなかった病気がオンラインで診療できるようになってくるのではないでしょうか。
むしろ、オンラインでないとつながらない患者さんもいます。最近あった話なのですが、パニック発作で家から出られなくなった患者さんがいました。精神科に通院できないため、市町村に相談し、当クリニックのオンライン診療で治療していました。その患者様は徐々に改善し、外出もできるようになり、クリニックを直接受診できるまでになりました。これはオンライン診療でしかできなかった治療であり、私としてもとてもうれしかった一例となりました。
高血圧のオンライン診療はもっと普及してもいいのではないかと思っています。そうすれば、将来の動脈硬化や、人生を変えてしまうような脳血管障害や心疾患の発症を減らすことに貢献できるのではないかと期待しています。